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【連載】泣きのギター研究会(8) ジェフ・ベック

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語られていたようで語られていなかった“泣きのギター”に迫る企画!

研究員1号:みなさんコンニチハー! いよいよ年の瀬となってきましたね。

研究員2号:今年も残すところあと1週間ほどです。

1号:今年は、この“泣きのギター”企画が始められたことがワタクシにとって何よりの収穫です。紆余曲折を経てこの企画を……うっ(涙目)

2号:大袈裟な……。

1号:なにを言うかっ! ギターに関するメディアにとって“泣き”を取り上げるというのは、それほどに感慨深いものなのじゃ。

2号:ああ、また変なお師匠様バージョンになってる。ヨーダ意識してるの?それともカメ仙人? それはそうと、この企画、来年も連載続くんでしょ?

1号:はい、幸い読者の皆様からもご好評をいただいておりまして、これからもいろいろなアーティストを取り上げていきますよ。

2号:で、今回は、いよいよジェフ・ベックの登場ですね!

1号:そうじゃ、そうじゃ、来年(2009年)2月には来日公演が予定されていて、それも楽しみじゃなー。

2号:最新ライブ・アルバム『ライヴ・ベック3~ライヴ・アット・ロニー・スコッツ・クラブ』も好評ですよね。では、今回はジェフェ・ベックの「哀しみの恋人達」の“泣き”に迫ります。どうぞお楽しみください。




ジェフ・ベック「哀しみの恋人達」

(文:近藤正義)

実は、僕は趣味がこうじてジェフ・ベックの功績を世に広めるWIREDというバンドで課外活動を行なっております。

この活動は単に自分たちが楽しむというよりも、ジェフ・ベックの素晴らしい楽曲、演奏を今の時代に広めることを使命と考えております。それだけに自分に課したハードルは高いものがあり、けっこう己の首を絞めておりますが…(笑)


さて、なぜ僕がこんなふうにジェフ・ベックを敬愛するようになったのかといいますと、コンサートで生体験した「哀しみの恋人達」が原因なのです。

それは1978年11月24日、大阪府立体育館でのことでした。

もともと本人が乗り気でなかったトリオ編成のB,B&Aによる1973年の来日、体調不良によりキャンセルを連発した『ブロウ・バイ・ブロウ』リリース後の1975年の来日に続き、ジェフにとっては精神面でも健康面でも充実していた3度目の来日です。

アルバムとしては『ワイアード』(76年)、『ライヴ・ワイアー(LIVE WITH THE JAN HAMMER GROUP)』(77年)をリリースし、ナラダ・マイケル・ウォルデンやスタンリー・クラークのアルバムにもゲスト参加していたフュージョン路線真っ直中という時期です。

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ジェフ・ベック
『ワイアード』
1976年作品
ソニー・ミュージックエンタテインメント

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ジェフ・ベック
『ライヴ・ワイアー(LIVE WITH THE JAN HAMMER GROUP)』
1977年作品
ソニー・ミュージックエンタテインメント


この時期はジェフの長いキャリアの中でも一番テクニカルな音楽を目指していたと思います。もちろんこのライブの目玉はフュージョン・シーンのスーパー・ベーシスト、スタンリー・クラークとのジョイントでもありました。


世の中はそろそろパンクやニューウェイブの足音が聞こえてくる頃で、ギターが唸りをあげるロックは次第に衰退し、イーグルスやドゥービー・ブラザーズを中心に盛り上がったウエストコースト・ロックさえもAORへと移り行く時代でした。

この時期、3大ギタリストとしてよくジェフと比較されるエリック・クラプトンはレイドバックし、ジミー・ペイジのレッド・ツェッペリンも時代の流れの中でサウンドを変化させていました。

そんな時代にインスト・フュージョンというスタイルを採り入れ、以前にも増してアグレッシブなギターを聴かせてくれるジェフ・ベックは僕にとって最後の砦だったのです。


まあ、とにかくこの日のコンサートは驚きの連続でした。

ジェフはいきなりギター・シンセサイザーを弾いて登場。ヤン・ハマーとのライヴ・アルバムでも演奏されていた「Darkness/Earth In Search Of A Sun」の冒頭部分をイントロに使い、まだ謎の新曲だった「Star Cycle」に突入。後にリリースされるアルバム『ゼア・アンド・バック』(80年)に収録されたようなシンセとギターがかけあうアレンジではなく、全編ジェフがギター・シンセで弾きまくっていました。

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ジェフ・ベック
『ゼア・アンド・バック』
1980年作品
ソニー・ミュージックエンタテインメント


他にもコージー・パウエルのアルバム『TILT』(82年)で日の目をみるこれまた謎の新曲「HOT ROCK」、その他には「School Days」「Journey To Love」「Lopsy Lu」などスタンリー・クラークの曲を交えながら「Rock'n Roll Jelly」で幕を下ろすという、情報量の少ない当時のファン、そしてまだお子様だった僕にとってそれはそれは衝撃的な内容のステージだったのです。

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『サンダーストーム(TILT)』
コージー・パウエル
1982年作品


大半が知らない曲だったにもかかわらず、僕は完璧にノックアウトされました。しかも、その興奮はそれまでに来日公演を見てきたツェッペリン、パープルなどのロック・バンドとはまったく違う感覚のものでした。ある意味、このコンサートは僕にとってジャズ/フュージョンへの誘いだったような気がします。

そしてアンコールの1曲目、ジェフはそれまで弾いていたストラトをテレキャスに持ち替えて登場し、舞台最前列の1メートル以上はある段差のところに足を投げ出して座りました。

そして突然始まった「哀しみの恋人達」……あのイントロを聴いたとたん、僕の目からは涙があふれはじめました。

この曲には直接的に感情に働きかける歌詞があるわけでもなく、特にこの曲にまつわる個人的な思い出があるわけでもありません。しかし、ジェフの奏でる音色と旋律は僕の感性を強く刺激したのです。演奏が続くと涙が次々とあふれ、止まらなくなりました。正直言って自分でも驚き戸惑いました。この時、僕は初めて音楽を聴いて涙を流すという経験をしたわけです。そして自分でも「このような音色でギターを弾きたい」と思ったのを覚えています。


さて、この曲を作ったのがスティーヴィー・ワンダーであることは周知の事実ですが、実はボーカル曲であったことは意外と知られていません。

1970年から72年にかけてスティーヴィーと夫婦であった女性、シリータ・ライトの1974年にリリースされたアルバム『スティーヴィー・ワンダー・プリゼンツ・シリータ』で歌モノとして先に発表されていたのです。

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シリータ
『スティーヴィー・ワンダー・プリゼンツ・シリータ』
1974年作品


ジェフのバージョンが収録された『ブロウ・バイ・ブロウ』のリリースが1975年4月ですから微妙な時間差ではありますが。しかしいずれにせよ、この曲を世界中の音楽ファンに認識させたのはジェフ・ベックによるバージョンであることは間違いありません。

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ジェフ・ベック
『ブロウ・バイ・ブロウ』
1975年作品
ソニー・ミュージックエンタテインメント

そして「CAUSE WE'VE ENDED AS LOVERS」というタイトルが漂わせる漠然としたイメージで聴けば歌詞がなくても雰囲気は充分だと思います。

さらに、この曲をジェフはロイ・ブキャナンに捧げていますが、おそらくこれまた泣きのギター名曲「メシアが再び」にインスパイアされたということなものでしょう。

全編で聴くことのできるレスポールを思わせる太いトーンながらブライトなサウンドはテレギブによるもので、イントロのボリューム奏法部分のみストラトを使用していたようです。

また、極上のギター・トーンに加えて、全く無駄がないと言えるフレーズの数々……当時のリハーサル・テイクをブートレグで聴いても、この曲に関しては行き当たりばったりのアドリブではなく作曲というニュアンスでメロディとして完成させていたようです。それほどに美しくドラマチックなギター・ソロでした。ジェフ本人はライヴにおいてかなり自由に演奏していますが、やはりオリジナル・スタジオ盤のフレーズはひとつの連なったメロディとして僕の頭の中に焼き付いています。


年月を経て、当時の記憶は次第に薄れていきます。しかし、法律違反でたいへん恐縮なのですが、1978~79年に各地で収録されたブートレグを聴いているとあの日の感激をもう一度味わえるような気がします。

その後もこの曲はジェフのライブでハイライトとなり何度も演奏されてきましたが、あの時期の音色と感動は二度と味わうことができませんでした。

音は恐ろしく悪いのですが、1978年11月24日の当日に隠し録りしたカセット・テープも僕の宝物です。それほどこの時期のジェフの音楽には思い入れがあります。

そして、先日ついに無謀にも自分のバンドでこの時期のジェフを再現したライブを行ないました。でも、この曲「哀しみの恋人達」は演奏していません。なぜなら、いくら音符上完全コピーで弾たとしても、あの夜僕が受けた感激には遠く及ばないからです。当たり前のことですが……(笑)

ジェフ・べックの数ある泣きの名曲の中でも、この曲はいまだ僕にとってうかつに踏み込むことが許されない“聖域”なのです。

まもなく11度目の来日を果たすJEFF BECK。注目の女性ベーシスト、タル・ウィルケンフェルドのベース・ソロをフィーチャーしたバージョンでこの名曲の歴史にまた新たなページを加えてくれることでしょう。


[近藤正義]


[ジェフ・ベック紹介ページ - ソニー・ミュージックエンタテインメント]

[ジェフ・ベック 公式サイト](英語)


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【著者プロフィール】
近藤正義(こんどう まさよし)

音楽評論家/ライター/コンパイラー。

70年代のロック・ソウル・フュージョンを聴いて10代を過ごす。

その後は“聴く・見る・演奏する”の3拍子揃ったオールジャンルなミュージック・ライフを実践。連日原稿の締め切りに追われるのが快感という仕事M。

ジェフ・ベックを師と仰ぎ、コピーバンドWIREDを率いて活動中。『ギター・マガジン』2009年1月号のジェフ・ベック特集でも執筆。

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『ギター・マガジン』2009年1月号

GM創刊2号(1981年)に掲載されたインタビューの再録、最新ライブ作『ライヴ・ベック3~ライヴ・アット・ロニー・スコッツ・クラブ』の全曲解説、1973年~2006年までの全来日公演での機材変遷を振り返るコーナー、ライブにおけるベック・サウンドのメイキング指南、「ブラシ・ウィズ・ザ・ブルース」の奏法分析、「レッド・ブーツ」のスコアなど。

→詳細はリットーミュージックホームページで


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