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【連載】泣きのギター研究会(5) ヴァン・ヘイレン

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語られていたようで語られていなかった“泣きのギター”に迫る企画!

研究員1号:みなさんコンニチハ。今週も“泣きのギター”のコーナーがやってまいりました。

研究員2号:まいりました!!

1号:最近は読者投稿などもいただいておりますこの企画、皆様のあたたかいご支援に支えられています。

2号:今日はなんだか選挙の挨拶みたいですね。

1号:いいのじゃ!

2号:あ、お師匠様バージョンになった……。ところで、今日ご紹介するアーティストはどんな?

1号:おお、よくぞ聞いてくだされた! 本日はアメリカン・ロックの超有名ギタリストですぞ!

2号:あー、ますますなんだかワケわかんない口調のキャラになってきましたね……ま、それはいいですけど。その“アメリカン・ロックの超有名ギタリスト”、楽しみですね!

1号:でしょう!それに今回は関西弁の痛快な掛け合いも見どころ(読みどころ)ですよー!

2号:では、皆様もどうぞお楽しみください。




ヴァン・ヘイレン「ノット・イナフ」

(文:舩曳将仁)


ブリティッシュ・ロックもアメリカン・ロックも大好きで、ヘヴィ・メタルもプログレも、パンク、ジャズ、クラシックやJポップも分け隔てなく聴く。これまでに手がけてきた原稿の一覧を見ていただいても、まあ節操のないことと……いやいや、何でも聴くんだなということがわかってもらえるだろう。

音楽に限らずそうだけど、ジャンルやカテゴリーにこだわりなく幅広く楽しみたいというのがポリシー。ビートルズが好きで、メタリカが好きで、ビータリカも楽しめる方が人生楽しいと思うわけです。


でも世の中には、「それはおかしい」という人も当然いる。僕より年齢が一回り下の血気盛んなブリティッシュ・ロック・ファンY君もその一人。以前、居酒屋の片隅で焼酎片手に激論となった(関西弁は、地なのでお許しください)


Y:ブリティッシュ・ロックが好きで、アメリカン・ロックも好きやなんておかしいでしょ? 良さが全然違うやないですか!

僕:カレーライスとお寿司も全然良さが違うけど、どっちも好きやろ?

Y:まあ、それは好きですけど。でも、どっちもご飯モノやないですか!

僕:安田美沙子と安めぐみは全然違うけど、Y君は二人とも好きやろ?

Y:まあ、確かに。でも、どちらも癒し系やないですか!

僕:だから、そういうことやんか。ブリティッシュ・ロックとアメリカン・ロックは違うものやけど、音楽という共通点でどちらも好きなんやって。

Y:えー、でも安田美沙子と安めぐみ、どちらもっていうのは贅沢すぎますやん。

僕:(キレ気味で)あー、そうかい! じゃあ、わかった!! 僕は安田美沙子一筋に決めるから、Y君はもう二度と安田美沙子が好きって言うなよ!

Y:ああ、いいですとも!! 僕にはまだ長澤まさみがいますんで!

僕:あ、それは贅沢すぎるやないか!!


お互い何の話をしてるんだか、わからないまま夜は更けて……。


ブリティッシュ・ロックとアメリカン・ロック、どちらも好きだとはいえ、やはりそれぞれに違いはある。あくまでイメージだけど、鈍色の空の下で育ったイギリス人と、燦然と輝く太陽の下で育ったアメリカ人とでは表現される世界も異なってくる。大雑把に言えばブリティッシュ・ロックは翳りのあるウェットなメロディが魅力で、アメリカン・ロックはスカッと爽やかな快活さが心地よい。


そう考えると、“泣きのギター”に関しては圧倒的にブリティッシュ優勢と思える。ブリティッシュ・ロック命のY君ならこう言うだろう。

「アメリカンなギタリストに泣きのギターが弾けますか?」

ああ弾けるとも! そういうギタリストもたくさん居るわい!!


そこで、典型的なアメリカン・スタイルのギタリストで、およそ“泣き”とは真逆の存在と思われている(?)エディ・ヴァン・ヘイレンの泣きのギターを紹介したい。


ヴァン・ヘイレンのことを簡単に説明しておくと、ドラムを担当する兄アンソニーとギターの弟エディのヴァン・ヘイレン兄弟が、ベースのマイケル・アンソニー、ヴォーカルのデイヴ・リー・ロスとともに結成したバンドで、1978年に『炎の導火線』でデビュー。以降ヒット・アルバムを出し続け、アメリカを代表するハード・ロック・バンドの地位に君臨しているモンスター・バンドだ。


デビュー当初に彼らが注目されたのは、エディ・ヴァン・ヘイレンの超絶技巧を駆使したトリッキーなギター奏法。特に『炎の導火線』に収録された「暗闇の爆撃」でのライト・ハンド奏法は、世界中のギター・キッズをぶちのめした。

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ヴァン・ヘイレン
『炎の導火線』

ワーナー・ミュージック・ジャパン


新作発表の度に「今回のエディの新技は何か?」ということが話題にのぼり、誰も彼に“泣きのギター”など求めなかった。徹底的にテクニカルかつアグレッシヴに弾き倒して欲しいというのがファンの願いだったといえる。

エディ自身もそれを承知していたのか、ヴァン・ヘイレンの初期5作にバラードは一曲もなく、とにかくワイルドでハイテンションなアメリカン・ハード・ロックを貫徹している。

ところが、1985年に路線を変更。きっかけのひとつになったのはシンガーの交代だった。


マスコミの前に立つとウキウキドキドキでビッグ・マウスを炸裂し、ゴージャスな衣装で派手なアクションを決めるデイヴ・リー・ロスから、ソロでも確かなキャリアを築いてきた実力派シンガー、サミー・ヘイガーに交代。

この新編成で1986年に『5150』を発表。そこに、バラード曲「ラヴ・ウォークス・イン」が収録されていたのである。

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ヴァン・ヘイレン
『5150』

ワーナー・ミュージック・ジャパン


エディ・ヴァン・ヘイレンは同曲で、バンド史上初といえる“泣きのギター・ソロ”に挑む。しかし、曲としては素晴らしいが、こと“泣きのギター・ソロ”にだけ注目すると、エモーショナルさに欠けるように感じられるのだ。

続く1988年の『OU812』にも「ホエン・イッツ・ラヴ」というバラードがあったが、まだまだ何かが足りないという感じだった。

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ヴァン・ヘイレン
『OU812』

ワーナー・ミュージック・ジャパン


それから8年後、ついにエディ・ヴァン・ヘイレン“泣きのギター”の決定打が登場する。


それが1996年発表の『バランス』に収録された「ノット・イナフ」だ。このバラード・ナンバーにおけるギター・ソロで、エディのテクニックとエモーショナルな表現力が見事合致。技術点も表現力も満点の“泣き”を聴かせてくれている。

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ヴァン・ヘイレン
『バランス』

ワーナー・ミュージック・ジャパン


ソロ序盤からテクニカルに弾くことを抑制。音数の少ないフレーズでスタートし、やがて感情の昂りを表わすように音数が増し、チョーキングの振幅も大きくなっていく。

つまり、ソロ・パートがハッキリとした構成を持っていて、聴き手の悲哀感や切迫感が徐々に高められていくのだ。「なんとなく手癖で歌と歌の合間にソロをはめ込んでみました」という安易さは微塵もなく、ギター・ソロだけで物語性を感じさせるものになっている。

ラストも「ここぞ」というところで徹底的に泣きのチョーキングを決め、再び静寂へ。そして、しっとりとした歌パートへ戻っていく。楽曲の起承転結における“転”の役割も見事に果たしているのだから完璧だ。

むせび泣くというよりは、ホロリとさせる“泣き”。キュンと胸を締め付ける名ギター・ソロといえるだろう。


徹底的にワイルドだった初期から、「ラヴ・ウォークス・イン」を経て「ノット・イナフ」へ。20代から40代へと成長していくにつれ、エディのギターには深みと味わいが確かに増している。「ノット・イナフ」の“泣き”は、40歳を迎えたエディだからこそ生み出せたものと言えるかもしれない。


年を重ねるごとに豊かさと深みが増す。人間、そうありたいものだ。

いつかYくんも偏見なくアメリカン・ロックを聴くようになり、ヴァン・ヘイレンの「ノット・イナフ」でホロリと泣いてくれればいいけど。


[舩曳将仁]


【著者プロフィール】
舩曳将仁(ふなびき まさよし)

著書に『ブリティッシュ・ロックの黄金時代』『英国ロック博覧会』(ともに青弓社・刊)

音楽雑誌や音楽関連書籍に多数寄稿。

現在、育児奮闘中。

[舩曳将仁サイト:猫杓子骨董音楽堂]

[舩曳将仁ブログ:猫が茶を吹く昼下がり]


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※本企画では、いわゆるブルースに関する“泣きのギター”の考察は除外しております(広範囲になりすぎるため)。