ライブレポート/ザ・フー
ザ・フー
2008年11月17日 日本武道館
ザ・フー初の単独来日公演! 4年前の“ロック・オデッセイ”で初来日を果たした際は、ロック・ファンの間で絶賛されたということもあり、もう一度あの衝撃を目の当たりにしたいという切実な思いを抱え、多くのファンがこの日を待ち焦がれていただろう。
まして、場所は聖地=日本武道館、開演前から過剰な盛り上がりを見せ、オープニング前のSE(ビートルズの「ジ・エンド」を始め、60年代のロック・クラシック曲がセレクトされていた)にも全員が手拍子でこたえ、会場は抑え切れない期待感と興奮で溢れ返っていた。
定刻を10分ほど過ぎた頃、ついにピート・タウンゼント(g)、ロジャー・ダルトリー(vo)を中心としたライブ・メンバーがステージ上に。その瞬間の割れんばかりの歓声と言ったら、そこらのライブではまず味わえないほどの凄まじさだった。
ステージのピートは、近年のトレードマークである赤いストラトキャスターを抱え、アンプはフェンダー製と思われるコンボ・アンプ4台を2段ずつに分けて積んでいた(下の2段はスピーカーだけの可能性があるが、ステージから離れた場所から観ていたので詳細は不明)。
やまない歓声の中からピートが取り出したリフは、黄金の“E→D→A”進行からなる「アイ・キャント・エクスプレイン」。ファンの声は悲鳴と化した。
ギター・ソロでは“どうだ!”と言わんばかりに、早くも十八番のブンブン回しストロークが炸裂。これには、いやがおうにもテンションが上がってしまい、心からの喜びが芽生える。実際に観ていると、うしろから回してきた右手をあえて空振りさせたかと思うと、瞬時に上から下に弦を掻き鳴らす瞬間などもあり、冷静に使いどころを見極めている様子が伝わってきた。
また、バリバリの速弾きをするでもなく、キレキレのカッティングをするわけでもないのだが、独特の音使いと開放弦の鳴りを厭わないダイナミックな弾きっぷりは、なぜ彼が40年以上も第一線で活躍してこられたのか?という問いに一発でこたえてくれたと思う。何より、純粋にカッコいいギタリストであることを序盤にして証明してみせたのではないだろうか?
3曲目「エニウェイ・エニハウ・エニホエア」のイントロでは、ブリッジ付近をトレモロ奏法的に掻きむしり、ソロではちょっとしたタッピングを披露するなど、まさにアイディアの宝庫といった感じでギター1本でさまざまなフレーズを操っていた。そういった多彩かつ器用な点もピート・タウンゼントというギタリストのアイデンティティと言える。
近年はアームの使用率もかなり高く、アーミングに得意のフィードバックを加えたアヴァンギャルドな奏法は、進化をやめないこの男が新たに確立した“今”のスタイルなのだろう。
ロジャーの歌声も決して最盛期に引けを取らないほどパワフルなものだった。マイクを振り回しながらの大胆なステージ・パフォーマンスも健在で、「フー・アー・ユー」などでは、ギブソンのアコースティック・ギター=エヴァリー・ブラザーズ・モデルを使用するシーンもあり(1曲でフェンダー・テレキャスターも登場)、オリジナル・メンバーとしての重責を見事に果たしてくれた。ちなみにサイド・ギターはピートの実弟であるサイモン・タウンゼントで、控えめながら的確なプレイで音に厚みを加えていた。
中盤は『フーズ・ネクスト』や『四重人格』からの曲を中心に、専売特許でもあるシンセサイザーを駆使した曲をセレクトし、そこにまたピートの独特なギター・フレーズを絡ませることで、アンビエント感のある壮大なサウンドスケープを生み出していた。
若干まったりとした雰囲気にもなったが、終盤に放たれたモッズ・アンセム曲「マイ・ジェネレーション」で空気が一変。もう少し客層が若かったらモッシュ&ダイブも起こりかねないハイ・テンションさで、会場中が合唱し、体中でそのグルーヴに酔いしれていた。
終始、黒子役に徹していたピノ・パラディーノ(b)は、ジョン・エントウィッスルの暴れ馬なフレーズもしっかりと再現しており、ブレイクの合間を縫うキメどころに思わず“これこれ”とニヤついたファンも多かったことだろう。
しかし、なんと言ってもアンコールの“トミー・メドレー”が最高の見どころだった。
「ピンボールの魔術師」のストロークが始まった瞬間はまさに鳥肌モノで、続く「すてきな旅行(Amazing Journey)」、「スパークス」、「シー・ミー・フィール・ミー」に完全にノックアウトされてしまった。
ちなみにピートは終始ストラトキャスターを手にしていたのだが、「ピンボールの魔術師」のイントロなどではアコースティカルな音色を奏でていた。これは、おそらくステージ脇にあった大掛かりなサウンド・システム(ライブ中にピート自らエフェクトを切り替えているシーンがあった。残念ながら今回は取材NGとなってしまったのでこの機械の詳細は不明)にさまざまなエフェクトが組み込まれているのだろう。
「アメイジング・ジャーニー」ではリンゴ・スターの息子であるザック・スターキーが、元祖=キース・ムーンに負けない破天荒なドラミングで観客の視線を釘付けにしたかと思えば、ピートも負けじと長尺のインプロヴィゼーション・ソロでギタリストとしてのエゴを存分に発揮し、そのギターとブレインが直結したかのような鬼気せまるフレーズは、ピート自身もあこがれたというジミ・ヘンドリックスを彷彿させるものでもあった。
もちろんリズム・ギタリストとして秀でた部分があると思うが、トータルで見ると、とにかく不思議な感覚を持ち合わせているといった印象で、リード・ギタリストでもリズム・ギタリストでもなく、他者とは似ても似つかない唯一無二の存在なのだと感じた。
この日の最後は、最新作『エンドレス・ワイヤー』に収録されている「ティー&シアター」を披露したのだが、ロジャーの歌&ピートの生アコギ(ギブソンJ-200を使用)という、残されたオリジナル・メンバーだけからなる何とも贅沢な編成によるものだった。
この思いがけないプレゼントはかなり感慨深いものがあり、ピートとロジャーも日本のファンの熱狂を喜びながらステージをあとにしたことだろう。
残念ながら“ギター壊し”という荒技(?)を拝むことはできなかったが、冷静に考えればふたりとも60歳を超えたおじいちゃんである。それをまったく感じさせないどころか、ことピートに関してはギタリストとして明らかに進化している様子が十二分に垣間見られたし、何より我々が期待していた以上の“ロック・レジェンド”っぷりを見せつけてくれたことが最高にうれしかった。
文:坂口和樹(ギター・マガジン編集部)
写真:Yuki Kuroyanagi
※写真は11月14日、横浜アリーナで撮影されたものです。
【SET LIST】
01:I Can't Explain
02:The Seeker
03:Anyway Anyhow Anywhere
04:Fragments
05:Who Are You
06:Behind Blue Eyes
07:Relay
08:Sister Disco
09:Baba O'Riley
10:Eminence Front
11:5:15
12:Love Reign O'er Me
13:Won't Get Fooled Again
14:My Generation
15:The Naked Eye
ENCORE
16:Pinball Wizard
17:Amazing Journey
18:Sparks
19:See Me Feel Me
20:Tea & Theatre
『ギター・マガジン』2008年12月号にピート・タウンゼントの特集記事を掲載しています。1972年のインタビュー、ギター・アーカイブ、ディスク・ガイド、奏法分析など。
[THE WHO 公式サイト](英語)
- [2008年11月25日 15:16]











